高隈山からの空っ風のなか
甘く生まれ変わる芋たち
秋。サツマイモの収穫が始まると、垂水市の山間集落、大野原(うのばい)では、芋の蔓を束ねてぶら提げる「つらさげ芋」の風景が見られます。「つらさげ」とは、方言で芋の蔓を「つら」と呼ぶことからついた呼称だと言われています。見た目は何の変哲も無い芋ですが、糖度はなんと30度以上。中には50度にまで上るものもあるといいます。甘味を生み出すのは、きびしい大野原の自然。高隈山から吹き下ろす寒風が芋の水分を抜き、デンプンを糖に変えていくのです。「芋は霜に弱いから、この辺りでは昔から初霜までには芋を収穫して、軒先につらさげるものでした。おそらく、昔から大隅半島のどこでもやっていた貯蔵法です。当時は今みたいに砂糖がなかったから、甘いお菓子がわりに子どもに食べさせていたんですよね」と大野地区公民館館長の前田清輝さん。前田さんも子どもの頃からよく食べていたそうです。

東京で過ごした学生時代、世界各国を回った前田さん。東京と海外で過ごした経験から、日本育ち、大野原育ちのアイデンティティをはっきり自覚したと語る。