「『ないものはない』というくらい農産物が豊富なのが、南大隅の強み。その魅力を最大限に引き出すのが、僕の使命だと思っています」そう笑顔で語るのは、aqua base cafeの店長、山下淳也(やました・じゅんや)さんです。
aqua base cafeは、南大隅を代表する観光地の一つ「雄川の滝」の入り口にある飲食スペースです。
熱々のホットドックやボリュームたっぷりのランチメニュー、パッションフルーツジュースなど、滝の散策で疲れた体を癒す豊富なメニューが魅力のお店です。
新型コロナウイルスの蔓延によって大きな被害を受けているのが、観光業と飲食業。この二つの事業にダイレクトに関わっているaqua base cafeですが、ネットショップでの販売に挑戦したり、新たなスイーツメニューを展開したり、県外の物産展に出店したりと、「攻めの姿勢」で挑戦を続けています。
そんな山下さんがイメージする、地域における「これからの飲食店のあり方」とは?
インタビューを通して、現場からのリアルな声と、熱い思いをお届けします。
大杉:本日はよろしくお願いします!今日はお話を伺えるのを楽しみにしておりました。
山下:こちらこそよろしくお願いします。お店や経営に対するこだわりを直接お話しする機会はなかなかないので、いろいろとお伝えできればと思います。
カフェをやるつもりはなかったが…
大杉:aqua base cafe のオープンは、2018年の4月からでしたよね?
山下:その通りです。正直、始めはカフェをやるつもりは全くなくて、南大隅の佐多地域でお弁当屋さんを始める予定だったんです。
南大隅町役場に開業について相談に行ったところ、「あと1ヶ月後に観光協会の主導で、雄川の滝にカフェをオープンする企画がある。その運営をやってみないか」と打診がありまして。不安は大きかったのですが、観光関係のプロからアドバイスもいただけるというお話もあって、思い切ってチャレンジすることにしたんです。
大杉:そうだったんですね!お店は山下さんご自身のものではなく、南大隅の観光協会のものなんですね。知りませんでした…!
山下:カフェの運営は、町内での一般公募で決まったものなんですよ。私たちはそのスペースをお借りしてカフェを運営している「テナント」の立ち位置になります。本業は「31℃ LINE 花子」というお菓子の製造・販売を行う個人事業なんですよ。
大杉:なるほど、そういう仕組みになっているんですね!外側から見ているだけでは、なかなかわからない部分ですね。
漁協職員から、飲食業の道へ
大杉:カフェの運営を始めるまでは、どんなお仕事をされていたんですか?
山下:25年間、南大隅の根占(ねじめ)で漁協職員をやっていました。
大杉:そうだったんですね!飲食業に方針転換しようと思ったのは、何かきっかけがあったんですか?
山下:仕事の一環で、漁協の運営するレストランの企画・運営担当をやらせていただいたんです。お店の立ち上げ、調理、レジ打ちまで、あらゆる仕事を経験させていただきました。全体的にやりがいのある仕事だったのですが、なかでも特に楽しかったのが接客だったんです。
私たちスタッフがお客様に感謝の気持ちを持つのは当然なのですが、「ありがとう」と言っていただけた時の嬉しさが忘れられませんでした。そのうちに、自分も腰を据えてこの分野に挑戦してみたい、と思うようになったんです。
大杉:そこから飲食業の道に入られたんですね!そういう流れなら、やはりプロのサポートが受けられるのはありがたいですね。
山下:観光プロデューサーさんやフードコーディネーターさんには、カフェの立ち上げの際にとてもお世話になりました。
一番ありがたかったのは、商品の値付けについてのアドバイスでしたね。観光地にあるカフェということで、私たちが普段食べる料理やデザートに比べると少し高めの値段設定になるのですが、「これでお客様に納得してもらえるのか」という不安な気持ちが大きかったんです。
山下:しかし「まずはあなたたちがしっかり生活できる値段設定にすることが大事。そうすることで、結果的に取引先や地域の方々に利益が還元されていくんだ」というお話をいただいて。実際にお客様が喜んでくださる様子を見ているうちに、自信を持って提供できるようになりました。
大杉:自分も自営業をやっているので、その気持ちはよくわかります…!お客様に満足いただけるように全力を尽くしながら、数字の部分にもしっかり向き合う姿勢が大事ですよね。
コロナ禍での新たなチャレンジ
大杉:新型コロナウイルスの関係で、やはり経営的にも打撃はありましたか?
山下:それはもう、大打撃でしたね…。志村けんさんの訃報があったタイミングから、どんどんお客様が減っていったように感じます。鹿児島県内で「まん防」が出されるとさらにお客様の数が減り、経営的に厳しい時期が続きました。
大杉:地域の飲食店や観光地には、やはり苦しい状況ですよね…。そんな中でも、aqua base cafeでは新メニューの開発に力を入れていらっしゃいますね。
山下:コロナ禍の中で感じたのは、「『守り』ではなく『攻め』の姿勢も大事」ということでした。私たちのような観光地のレストランは、お客様に来ていただくのを待つのが基本姿勢です。しかし、いつ収束するかもわからないコロナ禍の中では、そんなことも言っていられない。なので、これまで挑戦したくてもなかなかできなかった「お土産品」開発をすることにしたんです。
大杉:たしかに、南大隅の観光地ではお土産品が少ない、という声をよく聞きますよね。
山下:そうなんです。本土最南端の南大隅では、年間を通して温暖なため、さまざまな農作物が栽培できます。タンカン、パッションフルーツ、畜産物…。どれも美味しいうえに種類も豊富で、「南大隅にないものはない」と言ってもいいぐらいです。しかし、持って帰って味わえるようなお土産物は、地域を見渡してもなかなかない。そこで作ったのが、「だいたんなゼリー」だったんです。
大杉:「柑橘類が口の中で爆発する!」という感じで、柑橘の味わいが見事に活かされていますよね。タンカンゼリーと生クリームの二層構造が目にも鮮やかで、たまらない味わいでした…!
山下:生クリームには「辺塚だいだい」の果汁も混ぜ込んでありまして、口に入れた時の濃厚さと爽やかさを演出してくれます。実は、この商品は3年間ずっと試行錯誤してできたものなんですよ。お土産品として出せるように、冷凍して解凍してからも美味しさが変わらないようにするのが大変でした。
大杉:長らく温めてきた企画がやっと実を結んだんですね…!「だいたんなゼリー」というネーミングは「だいだい」と「タンカン」から来ているんですか?
山下:その通りです!志村けんさんのお弟子さんの一人である「乾き亭 げそ太郎」さんがテレビ番組の収録でお店にいらしゃって、直々に名付けていただきました。
大杉:さすが、ユーモアあふれる素敵な商品名ですね。実際にお土産品として販売を始めてみて、反響はどうでしたか?
山下:今年からネット販売も始めたのですが、オンラインで購入してくださる方もたくさんいらっしゃいますね。最近は大阪や福岡の物産展にも出品させていただける機会もあり、お店のバイヤーさんからお声掛けいただくことも増えてきました。
大杉:まさに「待ち」から「攻め」の姿勢へ、という感じですね!コロナ禍だからこそ、これまでできなかったことや、挑戦したくてもできなかった方向性を試してみるのもいいのかもしれませんね。
「ここでしか食べられない」ものを
大杉:まだまだ厳しい時期が続くかもしれませんが、今後の展望を教えてください。
山下:南大隅は、食材に恵まれた地域だと実感しています。その美味しさを伝えるために、うちの商品は9割が南大隅産の食材をメインにしているんです。結果的に仕込みの時間が2倍ぐらいになってしまうのですが、それでもお客様の「美味しい!」という声を現場で聞いていると、ここでしか味わえない商品をお届けしたいという気持ちは強くなってきます。
今後はこうした南大隅の農産物の魅力をもっとアピールできるように、店舗やネットでも魅力をしっかりお届けしていきたいと思います。2022年の2月からは「だいたんなゼリー」に続いて「だいたんなショコラ」も販売を始めたので、そちらもぜひ味わってほしいですね。
大杉:「食」を通して観光客の方々と南大隅の接点を作れるのが、aqua base cafeと山下さんならではの強みですね。本日は貴重なお時間をありがとうございました!
※オンラインショップでのご購入は、↓のサイトからどうぞ!
https://31linehanako.base.shop
鹿児島県肝属郡南大隅町根占川南8485番地
大杉祐輔