「2020年までに、全国公開映画を撮る。」高校生の時に掲げた目標をひたすら追い続け、鹿児島に移住してきた若者がいます。移り住んだ地は、人口の半分以上が65歳以上の田舎町、南大隅町。それが、本土最南端の映画監督である、山下大裕(やました・だいすけ)さんです。
「地域おこし協力隊」として南大隅に着任し、退任後は映画取材のために47都道府県を車で周り(途中で車が事故に遭い、廃車になったこともあったとか…)、クラウドファンディングで撮影資金500万円以上を調達。いざ撮影!となったタイミングでやってきたのが、新型コロナウイルスによる長い長い自粛期間…。数々の困難に遭いながらも、新たな目標に向けて走り続けています。
「動画」や「映像」という新たな接点で地域とつながる、山下さんの描くこれからのビジョンとは?地域に移住し挑戦を続ける若手の、リアルな声をお届けします。
大杉:本日はよろしくお願いします!山下さんは同じ移住者として、色々とお世話になっております。
山下:こちらこそよろしくお願いします。大杉くんには、撮影のサポートや動画のゲスト出演など、色々と関わってもらってますね。
大杉:そうですね、いつもお仕事いただきありがとうございます…!今回はこれまでの活動やYouTubeでの配信活動など、南大隅で取り組んでいる様々なチャレンジについて伺っていければと思います。
日本映画大学での思い出
大杉:山下さんは、元々は福井のご出身ですよね?
山下:高校までは福井県の敦賀(つるが)で育ちました。母親の実家が南大隅で、そのつながりでこちらに移住してきたんです。
大杉:移住前に撮っている3本の映画作品は、全て敦賀を舞台にしたものですよね?
山下:その通りです。高校卒業後は日本映画大学で、脚本や演出について学びました。大学2年生の時に撮ったのが「SNOWGIRL」、4年生の時に撮ったのが「弥生の虹」ですね。
大杉:学生時代から、意欲的に制作していらっしゃったんですね。映画監督として独立するという強い気概を感じます…!
山下:映像制作会社に就職する同期も多かったですが、僕はあくまで映画監督として活動していきたかったので、卒業後は「DYCエンターテインメント」という個人事業を立ち上げました。敦賀市から業務委託を受け、地域の観光ショートムービーとして制作したのが、3作目の「いつか、きらめきたくて。」でした。
大杉:自分もすべて拝見したのですが、どんどん映像のレベルが上がっているのが圧巻でした。最新作も楽しみです!
「地域映画」にかける思い
大杉:山下さんのこれまでの作品は、全て地元である敦賀を舞台にしていますね。「地域で映画を撮る」というスタイルについて、こだわりなどありますか?
山下:元々は「地域で撮ること」そのものに強いこだわりがあるわけではなかったんです。大学では学生同士で撮影する脚本のコンペがあったのですが、全て落ちてしまって…。それでもどうしても自分の作品を撮りたくて、とにかく必死でした。初作品の「SNOWGIRL」では作品がまだ完成していないのに、先に上映する映画館を予約して自分を奮い立たせたりしましたね。
大杉:さすが、作品に対してストイックですね…!
山下:大学を卒業するときにお世話になった学部長へ挨拶に行ったのですが、「お前が監督として身を立てるなら『メルヘン』しかない。余計な小細工はするな」と言われて。すごく悔しかったのですが、自分の中でその言葉を反芻するうちに「あながち間違ってはいないな」と感じるようになりました。まずはその方向で勝負してみようと思い立ち、地域映画についての勉強会にも参加するようになりました。そこから自分のやりたい方向が定まってきたようなイメージですね。
「地域おこし協力隊」で南大隅へ
大杉:2017年7月から2018年末までの1年半は、地域おこし協力隊として南大隅で活動されていましたね。
山下:次の作品でやりたいことを考えたときに、母方の地元である南大隅のことが思い出されました。子供の頃は夏休みなどに遊びにきていたのですが、そこで作品を撮りたいという思いが強くなってきて。色々調べる中で「地域おこし協力隊」の存在を知り、応募することにしたんです。
大杉:作品のために、わざわざ移住までするのがすごいですね…!
山下:僕がやりたい地域映画は「その地域でしかできない作品」なんです。「地域」を舞台にした映画はたくさんありますが、その中には地元の食材やお祭りの描写はあるものの、表層的な部分を取り上げただけで終わりになってしまっているものもあるように感じます。
そうではなくて、地元に暮らす方々の雰囲気や空気感、セリフや細部に至るまで、もっともっと本質的な「地域性」を出していきたい。そのためには、まずは自分が南大隅に暮らし、地元の方々と生活を共にすることが大事だと感じたんです。
大杉:南大隅に住み始めて、もう5年目ですもんね。集落の草払いやイベントでも汗を流していらっしゃいますし、立派に地域の一員としてご活躍されていますね…!
目指していた「2020年」の先へ
大杉:協力隊の退任後は、いよいよ作品作りのための活動が始まりましたね。しかしその矢先に、新型コロナウイルスが…。
山下:協力隊の退任後は、50日かけて日本全国の地域おこし協力隊にインタビューに行ったり、クラウドファンディングで撮影資金500万円を調達したりと大忙しでした。
山下:「2020年までに全国公開映画を撮る」という夢の達成まであと一歩だったのですが、2020年の2月に、コロナで全国の学校が一斉休校になったんです。「これはまずいな」と思い、すぐに撮影全体を延期する決断をしました。東京オーディションも完了していたのですが、映画制作に関わる活動は全て中断することになってしまったんです。
大杉:高校生の頃から公言してきた夢が道半ばになるのは、胸が痛みますね…。
山下:まさにそうでした。ショックでしばらく寝込みましたし、気がつくとホームセンターで花を買い込んで、ガーデニングを始めていたりしましたね…。でも落ち込んでいてもしょうがないということで、興味はあったもののこれまで手をつけられていなかった、動画配信についての準備と勉強を始めました。
大杉:新型コロナウイルスでの自粛期間は、動画配信サービスの需要が高まりましたもんね。よく気持ちを切り替えられましたね…!
山下:僕が配信機材を取り寄せた10日後ぐらいには、6万円の機材が20万円まで高騰していました。イベント撮影の仕事も次々に中止になり、とにかく生きるのに必死でしたね。未知の分野であっても、勉強とチャレンジを積み重ねるしかなかったんです。
「ライブ配信」という武器
大杉:そこから始まったのがYouTubeチャンネルでの「土曜対談」だったと。
山下:コロナの自粛期間が始まってから2ヶ月後にチャンネルを立ち上げて、週に一回の生配信を始めました。配信機材を扱うのは初めてだったので、楽しみながらも将来的には仕事につながるようなイメージで、コンテンツ作りに取り組んでみることにしたんです。
大杉:県外にいらっしゃる映画関係のご友人から、南大隅で商店を営んでいる地元の方々まで、幅広いゲストとのトークが展開されていますね。自分も毎週楽しみにしております。
山下:ゲストとの対話は僕も楽しみで、勉強になることばかりです。新しくオープンした地ビールのお店や、新たに生まれた特産品の紹介など、南大隅の「いま」をファンの皆様と共有できるのが嬉しいですね。
大杉:特に南大隅の方々とのトークは、地元民の皆さんも楽しみにしているという声をよく聞きます。「動画」や「映像」という武器を持っているのは、やはり強いですよね。
本土最南端のスタジオから
大杉:2021年には南大隅町根占(ねじめ)のメインストリート沿いに「DYC STUDIO KAGOSHIMA」も完成し、さらに本格的な活動ができるようになりましたね。
山下:それまでは基本的に自宅で撮影・編集などを行っていたのですが、もっと地元の方々に開けた場で活動していきたい気持ちもあって。今後は「コミュニティFMの動画版」のような感じで、新たな方向性を探りつつ、地域の方々と一緒に映画プロジェクトを進めていければと考えています。
大杉:イベント関係ではコロナが収束した後も、生配信や動画の活用が重要になりそうですね。本格的な技術を持って映像制作や配信ができる山下さんの存在は、地域にとって貴重だと感じます。
山下:現在は自治体や企業からの動画制作・写真撮影の仕事が多いのですが、2023年の映画撮影を目指して、これから本格的に活動していきます。YouTubeでの配信など、よろしければご覧ください!
大杉:これからの活動も、非常に楽しみにしております。今回は貴重なお話をありがとうございました!
★山下大裕さんのYouTubeチャンネルは、こちらからご覧ください!
https://youtube.com/c/eigadaisuke
大杉祐輔