「普通ならこんなことをしても手間がかかるだけなんですよ。でも、だからこそ自分にしかできないモノづくりができると思ったんです。」そう朗らかに語るのは、水流祥雅(つる・よしまさ)さん。南大隅でも数少ない、オリジナルの陶器を製作する職人の一人です。
水流さんが製作する「雄川の滝 手造り陶器コップ」は、南大隅の観光名所の一つ「雄川の滝」をイメージした作品です。その特徴はなんといっても、コップの表面に刻まれた岩肌のようなデザインです。
一つ一つ丁寧に加工されたコップは、かなりの製作時間はかかるとのこと。しかし、だからこそ手作りならではの暖かみがあり、どれも手に馴染みます。
そのクオリティが評価され、鹿屋の焼酎蔵である「大海酒造」とのコラボレーションも展開されています。2022年3月現在も進行中のクラウドファンディングでは、大海酒造が初めて挑戦する甕貯蔵で熟成した新作焼酎と、水流さんのコップがセットで提供されることに。この企画には多くのサポートが集まり、目標の5倍以上の支援が達成されています。
そんな水流さんの陶芸人生は、南大隅の公民館講座から始まりました。「もともと工作が好きだったので、試しに受講してみたんです。基礎的なことは学べたのですが、もっと色々チャレンジしてみたかったので、本を読みながら自宅でも製作を進めていました。」
すると、講座が終わるころに講師の先生からの呼び出しがあり「君が次の講師にならないか?」とオファーを受けることに。
そこからはさらに陶芸に打ち込むようになり、自宅の駐車場スペースに工房や窯を設置。40年間勤めた役場を定年退職し、ようやく本格的な製品開発ができるようになりました。
現在は一日のほとんどを工房で過ごしながら、夏場は旅に出るという生活を送っています。
「退職後にやっと時間ができたので、去年は1ヶ月半かけて日本一周を達成しました。こんなご時世なので車中泊がメインですが、ご当地のB級グルメや温泉を思いっきり楽しむことができたのがよかったです。夕日が地平線に沈むのを眺めながら、一人で地元のお酒を飲むのもオツな体験でしたね」と楽しそうに語ります。
今後は夏〜秋に旅ができるように作品のストックを進めながら、観光客の方々に向けた陶芸体験にもチャレンジしたいとのことです。
「陶芸のいいところは、とにかく無心になれること。時間に追われる現代社会だからこそ、陶芸を通して自分と作品に向き合う時間は貴重だと思います」と明るく話します。
実際に筆者も岩肌のデザインを体験させていただきましたが、なかなかうまくいかないものの楽しい時間でした。
「粘土は子供と同じで、個性があるんです。コシの弱い粘土は大きな作品を作るのには不向きとか、種類によって焼き上がりの仕上がりが変わるとか。そのまま放っておくと硬くなるだけですが、手を入れることでどんどん変化していく。奥の深い世界ですね」と水流さんは話します。
地元である南大隅の魅力を、陶器に込めて表現する水流さん。趣味の域から一歩踏み込んだモノづくりの精神は、確かな熱量を感じさせます。雄川の滝や佐多岬に訪れた際は、ぜひお手にとってご覧ください。
鹿児島県肝属郡南大隅町根占川南3514
大杉祐輔