観光地に訪れたときの大きな楽しみといえば、やはり食事だ。初めての地域で飛び込む、初めてのお店…。インターネットや雑誌で調べるほど、たくさんの選択肢が出てきて迷ってしまうものだ。
そんなとき、ぜひ足を運んでみてほしいお店がある。南大隅町に入ってすぐのメインストリート沿いに見えてくる「NORI PIZZA」がそれだ。
NORI PIZZAは手作りのピッツァを提供する、地域でも貴重なイタリアンのお店の一つだ。一番の魅力は、なんといっても生地の美味しさ。カリっとしているがもちもち感もあり、噛めば噛むほど小麦の香りが口いっぱいに広がる。本格的な味わいに、いきなりノックアウトされてしまう。
抜群の美味しさの秘密は、その焼き方にある。手作りの生地を8時間じっくりと発酵させ、95秒で一気に焼きあげることで、素材の味が活きた絶品のピザが生まれる。
王道の「マルゲリータ」は、トマトの爽やかな酸味と優しい甘味があとを引く味わい。
人気商品の「自家製バジルペーストとマスカルポーネチーズ」は、チーズのまったり感とバジルの香りが絶妙だ。食べ進めるほどに、約17種類全ての味を試してみたくなってしまうだろう。
NORI PIZZAは2021年で創業5年目を迎えたが、その始まりは小さなプレハブの店舗からだった。「私が20歳のときに、親の家業であるタイヤ店を継ぐために南大隅に帰ってきたんですが、ほとんど仕事がなくて。もっと別な分野に挑戦してみたいと思ったんです」と、店主の湯前慎貴(ゆのまえ・のりき)さんは語る。
祖父の代から続く家業のタイヤ店はなかなか厳しい状況で、月に2〜3件しか仕事の受注がとれないこともあった。奥様とご結婚されて子宝にも恵まれ、今後の生活について考える日々が続いた。
そんなある日、テレビを見ていた母親から「これやってみれば?」と言われて目に飛び込んできたのが、自家製のピザ窯づくり。興味を惹かれた湯前さんはYouTubeを見ながら作り方を調べ、自らレンガを組み、辻岳のふもとまで行って専用の土を採取しに行った。
手作りの窯を完成させて初めて作ったピザは、家族からも「美味しい!」と大好評。
「『ああ、自分がやりたいのはこれだったんだ』、とその時に気づきました。飲食店の経験は全くなかったのですが、不安よりも楽しみな気持ちの方が強かったですね。失敗してもなんとかなるように小さくお店を始め、研究を重ねながら、段々と経営を本格化していったんです」と湯前さんは振り返る。
NORI PIZZAが提供する「ピッツァ」と一般的に言われる「ピザ」は、実は似て非なる食べものだ。「『ピザ』はアメリカの発祥で、生地よりも具材を楽しむのがメインです。『ピッツァ』はイタリア発祥で、具材よりも生地を楽しむ食べものですね。うちのピッツァの生地は小麦本来の旨みを引きだすために添加物や砂糖も使っておらず、健康面でも安心して召し上がっていただけます」と湯前さんは笑顔で語る。
最近は冷凍ピッツァの販売にも乗り出し、さらに人気が高まっている。鹿屋からわざわざやってきてお土産に買って帰る方もいるそうで、通販では県内からたくさんの注文が入っているそうだ。「ピッツァの冷凍販売は品質を保つのが難しいのですが、一枚一枚丹精込めて焼き上げています。ご家庭でも本格的なピッツァを楽しんでもらえればと思います」と話す。
「ピッツァのいいところは、誰かと一緒に楽しく食べられるところ。せっかく美味しい食べ物も、食卓を囲む人や環境がよくないと台無しになってしまいます。ピッツァを通して最高の時間を提供し、人や心の繋がりを作っていきたいですね」と湯前さんは笑顔で話す。
南大隅を訪れたときは、ぜひ気軽にNORI PIZZAに立ち寄ってみてほしい。ここでしか味わえない、大切な人との素敵な時間が過ごせるはずだ。
〒893-2501
鹿児島県肝属郡南大隅町根占川北369
大杉祐輔